紀行俳句


葛城、二上のみち

   高鴨集落

 高丘に 人高く棲む 日の盛り

 青田来し 婆が手押しの 空車

   高天彦神社付近

 天に近く 青田整う 神の午後

 手を浸す 流れにしるき 額の

   一言主神社

 大銀杏 緑陰深く 詣でけり

 でで虫や 神代の主も 人の貌

   大津皇子墳墓

 ふたかみや 悲しみの墳墓 灼くるまま

  炎天や 樹海に銀の 蝶渡る

   竹内街道

 蟇(ヒキ)ないて 古道の昼を 眠りと

 葛城へ 峰雲わたる 神の列

 旅了へて 裸足に置くや 氷水


             九二尾


赤目滝、香落渓のみち

 サンショウウオセンター

山椒魚 水辺に遠く 飼われけり

大山椒魚 反骨のまなこ 閉じしまま

 布曳滝付近

天よりの 流れ布引く 滝落下


紛れきて 蝶布曳の 滝となる

破れ巣を 瀬音に懸けて 蜘蛛の留守

 香落谷を下る

青すすき 聴こゆともなく 山の音

下り来て 村も茶店も 夏を閉ず

                  九二尾

 外鎌山、倉橋、聖林寺へのみち

  鏡王女歌碑

 水涸れて 恋やまされる 歌碑一基

 冬雲や 忍坂の山に 恋いくつ

  石位寺

 こもりくや 釈迦三尊も 冬眠る

  倉橋村

 枯菊を抱きて うらうら 村地蔵 

  聖林寺・十一面観音

 あくがれや 南無観世音へ 初詣

 観音に 濁世の冬や 微笑みたまう

 冬ざれて 菩薩の聲ぞ 野に満つる

                  

 (注)濁世は(じょくせ)、微笑みは(えみ)

以上作            九二尾


            トップに戻る